漆掻きを取材させていただきました

漆掻きを取材させていただきました

耐久性に優れ、なにより美しい漆器

漆は英語でjapanと言うほどで、日本を代表する工芸品です。

耐久性に優れ、なにより美しい漆器

しかし、その漆器を作るための漆は、ほとんどが中国産のものを使っているのが現状で、その割合は 97%以上と言われています。

残り 3%の貴重な国産漆ですが、その一部が茨城県で採取されています。

今回は、国産の漆がどのように採取されているかを、茨城県で漆かきをされている岡慶一さんのところへ伺い、取材をさせていただきました。

漆畑へ

漆畑へ

岡慶一さんは、専業で漆掻きをされている職人さんです。

漆掻きとは漆の木から樹液を採集することです。

工芸としての漆器の歴史は古く、縄文時代の遺物から漆塗りのものが見つけられています。

そんな歴史のある漆掻きの職人さんというと、厳格なイメージがあったのですが、岡さんはとても気さくな方で、冗談も交えながら漆掻きについて色々と教えてくださいました。

漆掻きのシーズンは6月頃から約半年ほどです。

私は、台風が過ぎてすぐの 8 月の終わりに伺ってきました。

待ち合わせ場所から車でついていくと、ここに入るの…?と言うような、普段では使うことがないような、険しい坂道へ。。

どれだけ山奥に行くんだろう…?!と、少し心配していたのですが、坂を登ってたどり着いたのは民家近くにある広々とした漆の畑でした。

漆は基本的に植林で、土地の持ち主の方に協力してもらったりと、まず植える場所を探すのが大変だそう…。人里離れた山の中にある畑もあるらしいのですが、今回は足場の良い場所を選んでいただけて正直助かりました…!

黒い傷のついた漆の木がたくさん生えていて、初めて見る不思議な景色です。

漆掻きの道具

漆掻きの道具

まずは道具から。

これらの道具を使って漆を掻きます。

見たことがない、変わった形状をしています。

左から、"掻き鎌(かきがま)""掻き箆(かきべら)"、**"皮剥ぎ鎌(かわはぎがま)"**と言います。

どんな風に使うんでしょうか?

掻き鎌

掻き鎌

”掻き鎌” — Y 字の不思議な形です。

小さな鎌と、U 字にぐっと曲がった刃の二つがついています。

今は、道具を作る鍛冶職人さんも少ないそうです。

掻き樽(かきたる)

掻き樽

”掻き樽” — 地元ではチャンポと呼ばれている、掻いた漆を集めておく樽です。

ホウノキという木の皮で作られています。

「なぜホウノキなんですか?」 と聞くと、樽の口のところを見せてくれました。

木の繊維ですこし毛羽立ったブラシ状になっています。この、ホウノキが持つ質感で、ヘラについた漆を切るそう。

口についている黒い色は漆の跡。味があって格好いいですね!と言うと、「漆があまりつかない方が上手いっていうことなんですけど 笑」 と苦笑いされていました。。笑

皮剥ぎ鎌を使って

皮剥ぎ鎌を使って

漆を掻くところを見せていただきました。

貴重な国産漆…と思うと、緊張して撮影する手もこわばります。

皮剥ぎ鎌を使って木肌の荒い皮の部分を落とし、表面を滑らかにします。

その際、デコボコした木の皮が残っていると、そこに垂れた漆が引っかかってしまうそうです。

かといって削り過ぎてしまうと、今度は木を痛めてしまう事になるので絶妙な力加減が必要です。

掻き鎌を使って

掻き鎌を使って

次に、木の表面に溝をつくります。

この溝から漆がじわっと溢れてきます。

また、より漆を出させるために、反対側の小さな鎌の部分であるメサシで、少しだけ引っ掻きます。

漆器に使われる漆は、このウルシノキの木が、傷つけられた部分を塞ぐために出てきた樹液が使われます。

漆がでてきました

漆がでてきました

傷をつけてすぐに漆がにじみ出てきました。木から出た漆は乳白色でツヤツヤしています。

時期によっては勢いよく噴き出してくることもあるそうです。

かぶれてしまうことを考えると、少しこわい…!

掻きベラを使って

掻きベラを使って

にじみ出てきた漆を掻きベラで集めます。力を入れすぎずにサッとヘラを通します。

漆を掻くというのは、このヘラで掻き取る様子に由来しています。

樽に入るのはほんの 1 ~ 2 滴ほど。

樽いっぱいに集めることを考えると、私なら無理やり掻き集めたくなってしまいますが…

「少し残しておかないといけないんです。」 と岡さん。

一つの溝から出た漆を採りきってしまうと、木が傷を塞ぐ分の漆がなくなり、木が弱ってしまうそう。

生き物から分けてもらっているものなんだな…ということを実感しました。

高いところまで

高いところまで

手の届くギリギリのところも傷をつけ、できるだけ漆を集めます。場所によっては梯子をかけて登ります。

下は根元近くから、上は自分の背丈以上のところまで。

なかなか全身を使う、大変そうな仕事です。

漆かきの跡

漆かきの跡

白っぽくみえる溝が新しく漆を掻いた跡です。2 時間くらいで黒く変色します。

一度にたくさんの傷をつけられるわけではなく、6 月頃に小さな傷を一度つけ、漆が木の中でその傷を修復するために集まってくるように促すのだそうです。

そして数日後、漆が傷周辺に集まった頃に、もう少し大きな傷をつけて採取、それを繰り返しながら段々に傷を長くしていきます。

逆三角形を形作る、無数の傷跡の理由を知ることができ、なるほど…。と思いました。

一度に全部の傷がついたのではないんですね。

焦ってもたくさんの漆を採ることはできません。

ここでも、生き物を相手にした仕事なんだということを感じます。

葉っぱも大事です

葉っぱも大事です

「漆は葉っぱから作られるんですよ」

時折、上を見ながら話をされていました。

つい、(傷がついていることもあり)幹の方に目がいってしまいますが…。

葉っぱの具合を見ることで、木に元気があるかどうか、それぞれの様子を見て、どのように傷をつけるのか。ということを決めているんだそうです。

「傷からでた漆が乾く前に雨が降ってしまうと、漆が流れて病気の原因にもなってしまうんです」

夏の季節に多い急な雨などの天候にも注意が必要です。

天候や木の状態に気を配りながら…ということを聞いて、農業のようだな思いました。

実際、漆を掻く以外の草刈りや肥料をやったりすることにも手間や時間がかかるそうです。

「漆畑が多かった頃には、その土地の農家さんが畑仕事のついでに漆畑の草刈りなどもしてくれていたのですが、今はそういったこともやっています。」

漆の畑を持っていることが当たり前だった時代もありました。

漆の木を見かけることがほとんどない現代では、かぶれてしまう木として敬遠されてしまうことが多く、管理をお願いする以上に漆を植えさせてくれる土地を見つけるのが大変です。

しかも、一本の木から取れる量は本当に少しだけ…。なので、たくさんの木を植えられる、広い土地がどうしても必要になります。

敬遠されがちなのにもかからわず、たくさん植えて育てる必要がある。日本産の漆が貴重になっている大きな理由がここにあります。

お話を聞いている間に…

お話を聞いている間に…

乳白色だった傷跡が、飴色に変わっていました。

2 時間で変色する、と聞いていたので、まさかそんなに時間が経っていたとは思いませんでした。

畑の中で立ち話にも関わらず、こちらが聞いたことに本当に熱心に答えてくださいました。

お話を聞くなかで、漆を掻く技術と経験の他に、前述した、漆畑を増やしていくという課題が見えてきます。

岡さんは県内で積極的に声かけを行っているそうです。

「漆の木が苦手という人でも、将来もしかしたらここで採れた漆が重要な文化財などの補修に使われるかもしれない、そんな話から夢を持ってもらえることもあります。何がきっかけになるか分からないです 笑」

漆掻きの取材をして

漆掻きの取材をして

今回の漆かきの取材のなかで、漆器に対しての新しい側面を見ることができたように思いました。

山を降りて、近くには大きな河が流れています。

景色の良いこの場所から、人目につかないところにひっそり広がる漆畑。秋になったら漆の紅葉が綺麗だろうなと思いますが、なかなか知っている人は少ないと思います。

岡さんのお話の中でとくに印象に残った言葉がありました。

「国産漆は高いからお金になるでしょう。と言う人もいるんですが正直全然です 笑。 お金を稼ぐなら他の仕事をしたほうがいい。

それでも、専業として漆掻きをするのはこれで飯を食っていく。という気持ちがあるから。そうすると考えるんです。考えるのをやめてしまったらダメだと思うんですよね。

最後に

最後に

漆の木から漆が採れるようになるまで 10 年はかかります。

それだけでも長いのですが、一本の木からはその年で漆を採りきってしまい、その後は伐採するしかないそうなんです。

なんだかもったいない話ですし、しかも伐採した木は使い道があまりないのだとか…

そんな漆の木の植木鉢が上の写真。自然で、可愛らしくて、穏やかな雰囲気がいいです…!

今回取材させていただいた中からご紹介できるのは、漆掻きについてのほんの一部です。追って、漆器の原料である漆についてまたご紹介できたらと思っています。

岡さんには今回の取材のために希少な漆を掻いていただきました。ありがとうございました!